Advanced

より高度な内容を勉強したいと考えている人たち向けのテキスト紹介です.
労働経済学・上級
学部上級生用の教科書です.とはいえ特段難しい理論が出るわけではないので,余力があればぜひチャレンジしてみて下さい.

1.Labor Economics(George J.Borjas)
昨年度の本ゼミでテキストとして用いられていました.労働経済学の国際標準とされる鉄板テキストです.こうした類の本は英語圏以外の国でのマーケティングも考慮しているので,英文も平易でわかりやすく構成されています.

2.Handbook of Labor Economics(Orley Ashenfelter , R. Layard)
労働経済学の主要トピックを全て辞書的に網羅したテキストです.全巻あわせると数千ページに及ぶため,ぱらぱら眺めながら面白そうな研究テーマを見つけるといった用途で用いられます.

3.労働経済学(大森義明)
邦書の中では比較的レベルの高い内容を扱っている本だとされています.基本的に上の1にのっとって記されています.コンパクトにまとめてありますが,内容的に若干の抜け落ちがあります.
日本の労働市場
日本の労働市場の特徴や,労働政策の効果などについて学ぶことができる本です.

4.日本経済の環境変化と労働市場(阿部正浩)
 特に日本の雇用に的を絞って論じています.マイクロデータが豊富で,雇用問題を論じる上で欠かせない本です.若干の計量経済学に関する知識があるとスムーズに読めると思います.

5.日本の労働市場改革(OECD)
 国内で行われてきた労働政策のまとめです.何を狙ってどのような政策が打ち出されてきたのか,そのパフォーマンスとともに詳細に論じられています.数式などは一切ありませんが,直訳風なのでごくたまに引っかかる箇所があります.

6.変化のなかの雇用システム(仁田道夫)
日本型雇用システムについて歴史をたどる形で認識を深めていく本です.太田先生の専門である若年雇用問題が労働経済学において占める立ち位置についても理解が深まると思います.
サーチ理論
労働市場分析に用いられるサーチ理論とは,労働者と企業がどのようにして労働需給をマッチングさせるのかを従来のワルラス的フレームワークから脱して論じられた思考体系です.いまや労働市場分析における必須ツールとも言えます.

7.Equilibrium Unemployment Theory(Christopher A.Pissarides)
ノーベル経済学賞を受賞したピサリデスの代表作です.薄いわりに重ための内容ですが,サーチ理論を学ぶ上でベースとなる一冊として太田先生も推薦しています.

8.サーチ理論(今井亮一ほか)
上の5で歯が立たなかったらいったんこの本を読んでみるといいかもしれません.サーチ理論を正面から扱った初めての邦書です.
マクロ経済学・上級
サーチ理論はマクロ経済学にも組み込まれつつあります.大学院以降のマクロ経済学の主流である動学的確率的一般均衡理論(DSGE)との親和性が高く,労働市場に不完全性を導入する際に用いられます.

9.現代マクロ経済学講義―動学的一般均衡モデル入門(加藤涼)
学部生でも手を出せるDSGEの入門書です.DSGEモデルを用いた分析のエッセンスを掴むには最適な本です.第4章でサーチが組み込まれたモデルが解説されています.

10.Recursive Macroeconomic Theory(Lars Ljungqvist, Thomas J. Sargent)
大学院で用いるマクロ経済学の標準テキストです.1000ページ以上ある大著ですが,何度もトライすればモダンなマクロ経済学の考え方が身につくとされています.26章を読むと7の内容がいかにしてマクロ経済学に応用されているかがよくわかると思います.
ミクロ経済学・上級
より厳密に,というのが学部上級以降で学んでいくミクロ経済学の基本的な方向性です.理論の精緻化のため,これとは別に経済数学も学ぶ必要があります.

11.ミクロ経済分析(ハル R.ヴァリアン)
学部上級レベルでよく用いられているテキストです.入門レベルに比べると数学的にやや高度になっており,より精緻な思考が要求されます.

12.Microeconomic Theory(Andrew Mas-Colell他)
大学院で用いるミクロ経済学の標準テキストです.10と同じく凶器になりうる大著ですが,ミクロのテキストとしてはこれが最高峰とされています.
計量経済学・上級
より高度な経済分析のために必要な書籍です.

13.計量経済学(森棟公夫)
 定評のある計量経済学のテキストです.統計の基礎の基礎から入って時系列分析まで到達できる優れものではありますが,特定の統計ソフトに寄り添った解説があるわけではないので,基礎を固めた上で取り組まれることをおすすめします.

14.Econometrics Methods for Labour Economics(Stephen Bazen)
労働経済学で用いられる手法に限った計量経済学のテキストです.これも特定の統計ソフトに寄り添った解説はありません.個別のメソッドを深掘りするというよりは分析手法のカタログのような本です.

15.経済・ファイナンスデータの計量時系列分析(沖本竜義)
時系列分析の本格的な入門書です.労働との関連では,インパルス応答関数などマクロ計量モデルで失業率などのデータを扱うときに用いる標準的な分析手法が学べます.
経済数学
高度な経済理論を学ぶために必要な数学の本です.

16.現代経済学の数学基礎(A.C.チャン)
上下2分冊で,学部レベルの経済数学に必要十分な内容が書かれてあります.やりきれば,少なくとも学部の理論分析で数学に困ることはなくなります.

17.動学的最適化の基礎(A.C.チャン)
学部上級レベルの経済学では,これまでのモデルに加えてしばしば時間という概念が導入されます.こうした動学モデルの最適化に必要な数学的素養を身につけるための本です.

18.動学マクロ経済学に必要な数学(中田真佐男)
内容を学部上級レベルのマクロで用いるものに限定した本です.到達できるレベルも低めで17と比べればはるかに網羅性は劣りますが,動学マクロを効率的に学びたい人が導入段階で用いると効率的です.